要求のカテゴリ
この項では,様々な要求のカテゴリを取りあげている.順番に見ることとしたい.
機能要求
機能要求は,将来ソフトウェアが環境中で持つべき機能的効果を定義している (P.23)
以前に「なに」次元で見たように,規範的記述である.以下に,原書にある例を示す.
- 文献検索エンジンは,キーワードに関係する図書館所有の本のリストを示すこと
- 列車制御ソフトウェアは,全てのシステムが管理する列車の加速を制御すること
- 会議スケジューラは,出席予定者のスケジュール制約を満足するようにスケジュールを決めること
原文では,全て”shall”を用いる記述になっている.ISO の規格日本語訳などでもおなじみの表現で,まさに要求事項を示している.さて,この次にまた不思議な文がある.
さて,そのような要求によって得られる効果は,”ソフトウェアが実行した「操作」によって生じる”と,している.
ここは,読むときに引っかかりがあった方が良い箇所と思う.おそらくわざと考えさせるような文にしている.要求でそういうソフトウェアを作れと書いてあるので,できたソフトウェアがその通りに動作するのは,当たり前ではないかと思う.まさに,その当たり前のことを書いている.ただ,ここでは,ソフトウェアの動作に名前をつけたいと考えている.その名前が,ソフトウェアの「操作」である.
この箇所に限らないが,パートIは,おそらくパートIIないしはパートIIIのあとに書かれている.少なくとも Lamseweerde さんの思考としては,パートIIと拡張・実験としてのパートIIIを繰り返している.その結果を,パートIへと抽象化したと考えている.
この本が出版されるまでの10年間ほどの間に,実に多くの論文がLamsweerdeさんによって書かれている.この本の物理的並びのように,抽象から具象へ進んでいるというより,具象から抽象が生まれている.従って,そのベースとなる具象が,抽象の議論に顔をだす.この「操作」概念も,同じであり,のちにKAOS法における重要な要素として紹介される.
さて,ここでは,幾つかのまとまった機能の集合をフィーチャー(feature)と呼ぶとして,ごく簡単にふれている.ここでのフィーチャは,プロダクトファミリーの議論にあるフィーチャとは違っている.もっとも,プロダクトファミリーについても,本書では軽い記述しかない.このパートは,要求の包括的な議論であり,記載が少ないことが,逆にとても興味深い.
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