KAOS (87) 文を形式化する基礎としての論理:述語論理 (4.4.1-11)

今回は,練習を兼ねて,限量子での同値の関係にある変形を見てみる.

「とべないトリがいる」は,述語「トリである」をB,述語「とべる」をFとすると,次の様に書ける.

∃x(B(x)∧¬F(x))

これは,「全てのトリがとべるわけではない」ということと同じと考えると,次の様にも書ける.

¬∀x (B(x) → F(x))

この式を変形してみる.B(x)→F(x)は,以前に命題論理のときに操作したように,¬B(x) ∨ F(x)と書ける.¬∀xP(x)が∃x(¬P(x))と書くことができれば,¬(¬B(x) ∨ F(x))は,B(x)∧¬F(x)なので,最初と同じになる.

¬∀xP(x)が∃x(¬P(x))は,ここでは,明らかであるということにしておく(次回の全称量子化の置き換え・インスタンス化を使用する).

さて,幾つかの定理を並べる.

なお,「⊣⊢」の意味は, φ1 ⊢ φ2 であり,かつ φ2 ⊢ φ1という定理を示している.これらの規則は背理法を用いて示すことができる.最後に,限量子の除去に関して,簡単に説明する.前半部分は,おそらく明らかであろう.なお,「束縛」と「限量子の除去」において,ψは,xを項として持つ.

幾つかの規則(定理)
否定

¬∀xφ⊣⊢∃x¬φ

¬∃x φ ⊣⊢ ∀x ¬φ

束縛

∀x φ ∧ ψ ⊣⊢ ∀x (φ ∧ ψ)

∀x φ ∨ ψ ⊣⊢ ∀x (φ ∨ ψ)

∃x φ ∧ ψ ⊣⊢ ∃x (φ ∧ ψ)

∃x φ ∨ ψ ⊣⊢ ∃x (φ ∨ ψ)

限量子の除去

∀x(ψ→φ)⊣⊢ψ→∀xφ

∃x(φ→ψ)⊣⊢∀xφ→ψ

∀x(φ→ψ)⊣⊢∃xφ→ψ

∃x(ψ→φ)⊣⊢ψ→∃xφ

束縛範囲

∀xφ∧∀xψ⊣⊢∀x(φ∧ψ)

∃x φ ∨ ∃x ψ ⊣⊢ ∃x (φ ∨ ψ)

束縛順

∀x∀yφ ⊣⊢ ∀y∀xφ

∃x∃yφ ⊣⊢ ∃y∃xφ

∀x(ψ→φ)⊣⊢ψ→∀xφを説明する.

最初は,∀x(ψ→φ) ⊢ ψ→∀xφ から.

結論を否定すると,¬(ψ→∀xφ).これは,ψ ∧ ¬∀xφと同じ.

ψも¬∀xφもともに真でなくてはならない.即ち,∃x¬φ(表の一番上の規則)

前提で,ψが真の場合,φはつねに真でなくてはならない.これは,偽の場合もあるという∃x¬φと矛盾するので,背理法から∀x(ψ→φ) ⊢ ψ→∀xφがいえる.

次にψ→∀xφ⊢∀x(ψ→φ) を示す.結論を否定して仮定を作る.∃x¬(ψ→φ)(表の一番上の規則から).これは,∃x(ψ ∧¬φ)と変形できる.つまり,ψが真,φが偽になる組が存在する.ところが,前提は,ψ→∀xφであるから,ψが真であれば,常にφは真である必要がある.従って仮定と矛盾するので,背理法からψ→∀xφ⊢∀x(ψ→φ) がいえる.

(nil)