KAOS (89) 過程ベースの仕様 (4.4.2-1)

久しぶりにタイトルが変わった.

さて,命題論理は中身は問わずに文の真偽を議論した.述語論理は文の述語を表現することで,表現力が向上した.しかし,それでもいえることは限られている.「人間であれば,いつかは死ぬ」ということばかりを考えているわけではない.

トゥールミンの図式では,最終の結論に至る前に様相限定子というのがでてくる.「必然的に」「明白に」「たぶん」といったものである.日常会話を考えれば分かるが,絶対の真だけを話しているわけではない.なんらかの形で,上記のような括弧付きで話している.推測とその確認が会話の本質であり,かならずなんらかの「様相」を含む.

様相というといかめしいが,英語でモード(mode, modal logic)と呼ばれる.日本語の文法書を見ると,ムードと訳される場合もある.そのままのタイトルの本を見ると,以下のようにある.

ムードは,動詞の示す運動を,話し手が現実と関連づけることに関わる文法的なカテゴリである 1

推量形として,例えば「かれも,これから本をよむだろう.」というのが示されている.この「だろう」は,「本を読む」ということに対する推量となる.

かくのごとく,様相を使わずに話すことは不可能なので,それを論理化したいというのは,自然の欲求である.

そのために,次のような様相演算子が定義された.

□:必然である

◇:可能である

例えば,自然数における通常の演算を認めれば,2×2が4になることは必然であるし,惑星の数が10を超えることは可能である( 2).

様相演算子を使った規則としては,さまざまなものがある.以下は,その例である.

□φ→φ

φであることが必然であれば,(現在は)φが真である.

□φ→◇φ

φであることが必然であれば,φであることが可能である.

これを違和感なく受け止めるか,規則(正確には,公理)として認めないかで,様々な体系が作られてきた.たった2つの演算子の追加によってである.よく知られているように,可能世界意味論によって,これら様々な体系の意味が与えられたが,未だに議論が収束しているわけではない.

さて,要求文書の多くは規範的な記述が多くを占めるため,様相演算子を必要とする場面は少ないかもしれない.

ただ,別の拡張が必要となることがある.時間軸上のシステム状態変化を記述するためである.

(nil)

Notes:

  1. 高橋太郎,日本語の文法,p.65, ひつじ書房
  2. 要素論理の有名な例に,惑星の数が9という有名な命題がある.しかし,数年前に話題になったようにいまや8か12かそれ以上かが定かではない.現実に確実なことなどないという良い例である