システムというのは,本質的に(コンポーネントの)合成である.しかし,コンポーネントの相互作用から立ち現れてくる大域的な特性を通じて,システムを知ることができる.(p. 4)
とても,興味深いシステムの描き方である.
ちなみに,ここでのコンポーネントというのは,ソフトウェア開発でいうコンポーネントとは異なっている.作ろうとする(或いは作った)ソフトウェア自身は,それ自体で一つのコンポーネントである.他のコンポーネントとしては,以下がある.
- 人々ないしは,特定の組織の方針に従ってある役割を果たす事業単位
- 物理法則に従う特定の規則の下で動作する物理的なデバイス(例:センサー,アクチュエーター,測定器具,通信媒体)
- 他のソフトウェア.レガシーなソフトウェアや利用している商用ソフトウェアで,相互作用する必要があるもの
コンポーネントは,それ自体はブラックボックスである.トートロジー的な説明のようにも思うが,そういうコンポーネントを措定することは実務的に可能である.そうすると,コンポーネントの合成であるシステムは,(ブラックボックスであるコンポーネントの中身は見えないので)唯一観察可能なコンポーネントの相互作用を見るしかない.
例えば,発券システムとは,顧客と駅員の相互作用(会話)があって,機械を通して発券される.乗車券は,改札の機械において,(乗車券・改札の機械の相互作用において)問題なく認識される.
現状システム(system-as-is)を知るというのは,ここからスタートする.
ちなみに,リクエストと全く異なる発券をしてもらったことがある.Luxembourgの駅である.片道でよいというのに,往復の乗車券を提示された.乗車券の料金が日によって変動する欧州ならではかもしれない.往復のいわばセット料金が,片道の正規料金より安かったので,駅員さんが気を利かせてくれた 1.
ここでの相互作用から,料金の変動があることを,観察を通じて見ることができる.そういうことは,要求として書けば済むのではないかといわれれば,その通りだろう.ただ,それでも抜け落ちる特性はあるかもしれない.抜け落ちてしまったものは,観察を通じてしか見つけることができない.
書けば済むというのは,要求者が全てを整理し把握しているということを前提としている.また,人は(私のように)想像界から決して抜け出ることができない以上,必ず抜け落ちる要素がある.その要求を受け取る側も同じであり,象徴界を具現化した要求書が全てではない.
(nil)
Notes:
- 往復が片道より安くなるはずがないという固定観念があって,一度では理解できず,実は2度説明をしてもらった ↩