喫煙者は,タバコを吸うことが身体に悪いと知っていながら,タバコを吸い続ける.今のやり方では拙いと分かっていながら,要求分析の方法を変えない実践者に似ている(p.52)
少なくとも人間が習慣を変えることを嫌う生き物であることには,同意する(喫煙は比喩として不適切だが).ここでは,要求工学の様々な技術を適用する上で,障害となることを述べている.なかなか興味深い.前回までに見たように,要求工学は重要であるにも関わらず,なぜ余り実践されないかという「障害」である.
費用回収の見込み
一般的に,要求の分析は,プロジェクトの契約前に実施する(提案するためには分析が必要).このとき,契約を結べるかどうかは分からないため,十分な費用を掛けることができない.
余裕のなさ
厳しいスケジュール・短期費用・最新技術へのキャッチアップに対する懸念と圧力がある
「経済学 1」
要求工学における「経済学」の研究は,ほとんどなされてこなかった.また,要求工学の技術を適用することによる利点と,費用面での有利さに関して,量的な研究も行われてこなかった.測定は難しい.大規模なエンピリカル研究からは,十分な証拠を得ることはできなかった.
取り残される要求文書
実践者は,時に要求文書が巨大で複雑だと感じる.そうした場合,プロジェクトの進化に合わせたメンテナンスがなされることはなく,古くなった要求文書は,誰からも見向きもされなくなる.
要求文書では動かない
要求文書は,最終顧客がお金を払う実行可能なソフトウェアから(ライフサイクル上)遠い位置にいる.実際,要求の品質は,最終製品の品質がどうかを,示していない.
取り組みの遅れ
授業や教科書,そしてパイロット研究を通じた効果的な要求工学技術の応用は, 他のソフトウェア工学の分野よりも遅れている.
(nil)
Notes:
- 当然ここでの経済学は,BohemのSoftware Engineering Economics を下敷きにしている.従って,括弧付きの経済学である.それでも,経済学的視点は必要だと考えている.特にソフトウェアプロセスの選択はトレードオフであり,マクロ的視点は必要だと考えている(とりあえず,お金の話は関係ない) ↩