AHPが他のモデルと異なる特徴を整理すると次の4点になります 1.
人間の持っている主観や勘が反映されるようにモデルが作られていること
多くの目的を同時に考慮できるようなモデルであること
曖昧な環境を明確に説明できるようなモデルであること
意思決定者が,容易にこのモデルを使えること
前回は,効果的な優先度付けの制約について考えた.この制約を満足する手法として,AHP(Analytic Hierarchy Process, 階層分析法)がある.AHPになじみがない人のために,何回かに分けて説明したい.
先ずは,きわめて単純な(階層を持たない)例から.
今,代替案が3つあるとする.この3つに対して優先度を付加することを考える.AHPでは,ペア比較(Pairwize Comparison,一対比較という訳語もある)を行う.必ずペアで比較する.これが,特徴のひとつである.もちろん,3つくらいであれば「えいやっ」法が使えるのであるが,多数に対する発展性に乏しい.
代替案A | 代替案B | 代替案C | |
代替案A | 1 | 9 | 5 |
代替案B | 1/9 | 1 | 1/4 |
代替案C | 1/5 | 4 | 1 |
縦軸・横軸ともに,同じ3つの代替策が並ぶ.決定しないといけないのは,上の表で青色背景色の部分である.ペアでの比較で,2つの代替案のみを比較する.通常は,1〜9の数値で表現する.1は「同じくらい」.9は,「きわめて重要」という場合である.上記1行2列で,9となっているのは,代替案Aが代替案Bよりも「きわめて重要」ということである.
一般には,1,3,5,7,9かその逆数を用いる.まれに偶数も用いる(上記).或いは,単に1,4,9とする場合もある.
行毎に考えていく.1行・1列目は,同じものの比較であり,当然1になる.この右下がりの対角線は常に1である.次に,代替案Aと代替案Bを比較する.代替案AはBと比べて「きわめて重要」なので,ここでは9を与えている(逆に考えないよう注意,ここでは,代替案Aが重要である).次に,代替案AとCの比較で,代替案Aは「かなり重要」で,5としている.
あくまで相対的な比較と云うことである.これは前回の条件bに相当している.
次は2行目.代替案Bから見て,代替案Aは逆の関係にあるので,先に入力した9の逆数がそのまま入る.2行・2列目は,同一比較なので1になる.3行・3列目は,代替案Bから代替案Cを見た場合である.Cの方がBよりも(4倍程度?)重要だとすると,ここには逆数が入る.
3行目は,もう比較済みなので,それぞれ逆数が入る.下三角行列は,常に入力不要である.
表を見て,2行目がそもそも要るのかと思ってはいけない.ここは,ポイントである.表にしてしまうと,つい,5/9を入力してしまいたくなるが,あくまでペアでの比較として考える.
計算のときは,表を埋めることになる.しかし,利害関係者に表を記入してもらうわけではなく,アンケートやインタービューを通して,データを集める.従って,アンケート用紙の作り方やインタビューの方法に考慮が必要である.
(この項つづく)
(nil)
Notes:
- 木下栄蔵,入門AHP 決断と合意形成のテクニック,pp. 2-3, 日科技連,2000 ↩