ここまでで様々な図式を見てきた.手法を考えるとき,単一の図式だけを用いることは少なく,通常は複数の図式を組み合わせることになる(KAOSもそうである).システムを記述するには,異なるビューが必要で,各ビューには適切な書き方(図式)がある,ということになる.
この項は,具体的な例がないので,幾つか知っている範囲で示してみる.
STATEMATE
3つのチャートを使用する.アクティビティチャート・ステートチャート・モジュールチャートである.アクティビティチャートは機能視点を示す.各機能のふるまいは,ステートチャートによって記述する.最終的なモジュール構成は,モジュールチャートによって示す.
OMT(Object Modeling Technique) 1
一時期は代表的なオブジェクト指向の手法であったが,今ではOMTという略語はオステオパシー治療の略としての方が有名かもしれない.教科書の表紙にあるように,オブジェクトモデル・状態モデル・機能モデルからなる.オブジェクトモデルは,クラス図であり,状態モデルは,ステートチャートの簡易版を使う.機能モデルは,DFDだが実際にはあまり推奨されなかった.
シュレイアー・メラー法 2
オブジェクト情報モデル・状態モデル・プロセスモデルからなる.オブジェクトモデルには,クラス図的なものである.状態モデルのベースは一般の状態遷移図である.プロセスモデルは,Mellor氏が,ワード氏と共にリアルタイム構造化分析手法を開発したこともあり,制御フローを含んだアクションDFDという図式を用いる.とにかく,あちこちにIDを振るところが特徴的である.
3つの手法概要を見て頂くと分かるとおり,おおむね機能/ふるまい/構造の3つの表現を持つ.STATEMATEのような反応型システムの場合は,ふるまいを重視するし,OMTやシュレイアー・メラー法のようなオブジェクト指向系は,構造を中心にしている.
手法の全盛時代は過ぎ,いま主流なのは,手法と直接にリンクしないUMLの様な図式リストである.機械設計における図面は,3次元に形を変えたが残っている.図面メタファの図式というのは,ソフトウェアの場合に成立しづらいということだろうと思う.
もちろん,それでもメタメソッド的な考え方をしている人もいる.問題に合わせて,手法の断片を組合せる.その断片に適切な図式(それはUMLにある適切な何かの図)を組み合わせるという方法である 3.
(nil)
Notes:
- James Rumbaugh, Michael Blaha, William Premerlani, Frederick Eddy, William Lorensen, Object-Oriented Modeling and Design, Prentice Hall, 1990. ↩
- Sally Shlaer, Stephen Mellor, Object Lifecycles: Modeling the World in States, Yourdon Press, 1991. ↩
- 最近のものでは,例えば,次の書籍を参照方:Henderson-Sellers, Brian. Situational Method Engineering. Springer-Verlag Berlin An, 2013. ↩