KAOS (31) ラダリング (2.2.4-3)

(ラダリングは)人格構成間の階層構造を説明するために開発された.インタビューアは,理解した構成に対して追加の質問を行う.そうすることで,異なる方向に進むことができる 1

PCTシリーズの最後である.ラダリング(laddering,梯子ののぼりおり)は,主として,インタビューに用いられる技術である.

人が世界を把握するときの見方には,その人が作り上げた「構成」が関わってくる.この「構成」をどう把握するかは,この3つで異なっている.

前々回のレパートリー・グリッドは,構成に対して,ある前提を置く場合もあるが,基本的にtriad(三つ組み)により見つける.3つの要素の中から,仲間はずれを選んでもらい,その時の基準が,一つの構成を形作る.

前回のカード・ソートでは,グループ化を試みてもらい,そのグループ化の基準が,「構成」を形作る.

ラダリングでは,構成は,階層構造をとるという前提に立つ.静的な対象ではなく,インタビューという動的な活動の中で,階層を上がったり,降りたりするので,この名前がある.注意すべきは,インタビューアは,(当然だが)答えを誘導してはいけない.回答者が答えを出せるように,ヒントを与えるだけである.

階層を降るタイプの質問(抽象から具象へ)

それが,Xだとどうして分かりましたか?

Xの例を挙げてもらえませんか?

階層を昇るタイプの質問(具象から抽象へ)

どうして,Xを好むのですか?

階層は同じだが,別の視点を求める

Xに類似した他の側面を思いつくことができますか?

このようにして,階層構造をとるということを意識してインタビューすることで,回答者の構成を明らかにすることができる.

なお,インタビューについては,もう一度,説明がある(2.3.1).

(nil)

Notes:

  1. Pankratz, O.; Basten, D.; Pansini, F.; Terzieva, M.; Morabito, V.; Anaya, L. A., Ladder to success–eliciting project managers’ perceptions of IS project success criteria. Ladder to success–eliciting project managers’ perceptions of IS project success criteria 2014.

KAOS (30) カード・ソート (2.2.4-2)

(複数の回答者がいる.)回答者は,対象を選択に従って,グループ化する.どうグループ化したかを,回答者毎に比較する.対象には図が書かれているかもしれない(図仕分け,picture sorts).物理的な何かかもしれない(アイテム仕分け, item sorts).或いは,カードに名前ないしは,状況が書かれているかもしれない(カード仕分け,card sorts) 1

カード・ソート法の基本的なアイデアは,前回のレパートリー・グリッド法と同じくPCTから来ている.前回の例では,構成が決まっているところからスタートし,直ぐに数値化している.カード・ソート法は,その前段階で利用するのに適している.

一般的なカード・ソートでは,カードに名前を書いておく.それを単一の基準で,グループ化する.そのときの基準が,一つの構成となる.このグループ化を繰り返し,複数の人で実行することで,複数の構成(レパートリー・グリッド法でいえば,レパートリー)を作ることができる.

冒頭に引用した論文では,カード・ソートを用いて,WEBページの評価を行ったケーススタディである.WEBは,British Sugar 社である.ここでは,要素(或いはオブジェクト)は評価者である.砂糖を生産する農家の人・WEBデザイナ・一般人に分かれる.9つのスクリーンダンプしたWEBページをそれぞれグループ化する.前述のように,一回のグループ化で用いる基準は,一つである.例えば,「読みやすい」という基準を用いれば,読みやすいページのグループと,そうではないグループの2つに分かれる.この「読みやすさ」は一つの「構成」となる.

同じページの組に対して,基準を変えながらグループ化を繰り返す.これにより複数の「構成」を得ることができる.このことから,立場によって,どういう視点から見ていて,そのときにどういうページを好むかが分かる.

基準として用いる言葉は,(その場で考えるため)様々である.ことば(構成)を整理することにより,最終的に共通理解ができる.

この「構成」と要素(農家の人・WEBデザイナ・一般人)からなるグリッドができる.ここまで来れば,あとは前回のレパートリー・グリッドと同様に扱うことができる.


カード・ソート法から連想するのは,KJ法である 2.カードを用いて,グループ化編成するところは,よく似ている.一度の実行ではだめで,繰り返しグループ化を試みること.違いは次の点である.カード・ソートでは,グループ化は必ず単一の基準で実行する必要がある.KJ法では,近い概念同士を集めるということに重点を置いている.分離と集約のどちらに重きを置くかという違いになるだろうか.

ところで,ともに帰納的なアプローチである.発想を生み出そうとするときの演繹的アプローチの戒めである次の文は,時代を感じ,ほほえましくもなる.しかし,人間の心根はいつも変わらない.

これをたとえていうと,大分けから小分けへとすすめようという我のあるところには,ヒットラーやスターリンのような心がある.(発想法,p.78)

(nil)

Notes:

  1. Upchurch, L.; Rugg, G.; Kitchenham, B., Using Card Sorts to Elicit Web Page Quality Attributes. IEEE Softw. 2001, 18 (4), 84-89.
  2. 川喜田 二郎, 発想法,中央公論社, 1967

KAOS (29) レパートリー・グリッド (2.2.4-1)

Kelly博士は,次のように仮定した.できごとや対象に付随する意味は,我々が主観を通して捉える現実を定義する.故に,我々が世界と関わる仕方を定義する 1

この項では,3つの技術がさらっと取りあげられている:レパートリー・グリッド,カードソート,概念ラダリング.これらは,兄弟のような関係にある.親は,後述するPCTである.

多くの人にとって(CHI 2の人は除く),馴染みがない手法と思う.本文では,知っていることを前提とし,全く記述がない.ここではそれぞれの方法を紹介したい.最初は,レパートリー・グリッドを取りあげる.


 

主観的という言葉があるくらいだから,我々は現実に対して,異なる価値判断をしている.以前のJ. Lacan のボロメオの結び目の説明だと,我々は現実界に直接手を触れることができない.必ずイメージ(想像界)を介して接触する.イメージの世界は,我々が経験から作り上げたものである.従って,個々人が見る現実というのは,異なっている.

これは,冒頭のKelly博士の主張につながる.彼は,心理学を専門とし,Personal Construct Theory(PCT, 人格構成理論 3)の提唱者でも知られる.

さて,各利害関係者の要求を調整しようとするとき,要求に対する重点の置き方は,人それぞれである.エンドユーザは使い勝手が気になるだろうし,プロジェクトマネージャは,確実にシステムが完成することを,気にするだろう.利害関係者というくらいだから,当然である.また,同じ役割でも,個人によって,何に重点を置くかは変化する.誰かがその役割における代表者になれば良いのだが,そうではない場合,どのように整理するかが,このレパートリー・グリッドの役割になる.

レパートリー・グリッドには,二つの軸がある.一つは,構成(constructs)と呼ばれるもの.これは,名前の由来になっているレパートリでもある.もう一つの軸は,そのレパートリの対象になっている要素(elements)である 4

横軸に,この要素を置き,縦軸に構成(レパートリ)を置くことで,格子ができる.心理学的には,構成(レパートリ)を中心にする見方が重要で,レパートリ格子,即ち,レパートリー・グリッドという名前がついている.

具体例を見ないと,なかなかピンとこない.論文 5にある例を,下記に示す.

題材としては,KHP(Kids Help Phone)で,助けを求める子供達を基本的には電話による会話を通じて支援するシステムである.新システムを作るにあたり,レパートリー・グリッドを用いて検討した.

repertory_grid

レパートリー・グリッドによるサービスの評価

縦に並んでいる(守秘(サービス),匿名性(サービス)等)が,「構成」である.横方向(トレーニング,リアルタイムWEBサービス等,図の中では縦だが)が,「要素」になる.要素は,機能を示している.それ自身は,(全くの主観を含まないわけではないが)客観的なものである.少なくともこういう分類だ,と合意がとれるものである.「構成」は,主観的なものである.例えば,電話による相談で,プライバシーが心配だという人は,マイナス(左)で,そうではないという人は,+(右)側ということになる.小さい数字が左側,大きな数字が右側である.電話による相談で,守秘に関しては,5が与えられているので,守秘が守られると受け止めていることを示している.

実際には,「構成」を見つけることが難しい.レパートリー・グリッドでは,三つ組み(triad)という方法を使う.要素を3つみせて,この中で「仲間はずれ」はどれですか?と尋ねる(就学前の子供達の問題にも見かける).選択されたところで,なぜ仲間はずれですか?と聞く.その答えこそが,「要素」に対する心的「構成」ということなる.

しかし,要求工学の応用例では,「構成」も最初から与えることも多い.

グリッドは,数値で与えられるために,様々な統計的な解析を引き続いて行う場合もある.なんらかの関連性分析,例えば,クラスタ分析を行うことで,要素・構成の分類や関係の強さを調べる場合もある.

ちなみに,この図を見て,品質機能展開(QFD)を思い浮かべる人も多いに違いない.Kelly博士の研究発表は,1955年,QFDは,60年代後半から発展し,赤尾教授による発表が,1972年.

Synchronicityである.

(nil)

 

Notes:

  1. Hassenzahl, M.; Wessler, R., Capturing design space from a user perspective: The repertory grid technique revisited. International Journal of Human-Computer Interaction 2000, 12 (3-4), 441-459.
  2. Computer Human Interaction
  3. どうも定まった訳語がない.この訳語が比較的落ち着く
  4. 要素—オブジェクトと構成—属性という我々にとってなじみ深い説明もある.しかし,ここで属性といっているのはオブジェクトを横断する特性であり,今ならばアスペクトといういい方が適切に思う
  5. Nan, N., So, You Think You Know Others’ Goals? A Repertory Grid Study. 2007, pp 53-61.